ベンチャー企業の人事制度の役割を再定義
ベンチャー企業は革新的なアイデアと迅速な意思決定を武器に成長を続けています。しかし、その急速な成長とともに、人材の育成、モチベーションの維持、評価の公平性などの課題も増えてきます。ベンチャー企業では、組織の最重要ミッションは「市場機会を誰よりも早く捉え、仮説検証を回し続けること」です。従来型の大企業的制度が担ってきた“序列保持”や“長期的安定”は、ここでは最優先事項ではありません。本制度は、人事制度を変化への推進装置と捉えなおし、事業シナリオの転換が生じても最小限の修正で運用が続くよう設計されています。
無駄を削ぎ落としたシンプル設計思想
複雑な人事制度は逆効果となり得ます。過度に細かいルールや手続きは、迅速な意思決定を妨げ、社員のクリエイティビティを制限する可能性があります。そこで本制度では、以下の3つの設計思想を柱としています。
- 単純明快:評価指標は二軸のみ、昇給ロジックはシンプルなマトリクスで一元管理。
- 合理性:行動(バリュー)と成果(成長目標)のみを評価に採用し、判定プロセスを透明化。
- 可変性:評価ウェイトや等級要件は半期ごとに見直しが可能。事業戦略に追随し、常に最適化された制度状態を維持します。
等級・キャリアラダー×デュアル構造
本制度では、初期フェーズ(おおむね社員100名未満)の等級は4段階を基本とし、100名規模以降は等級を6〜7段階へ拡張したり、サブグレードを追加することを選択肢として想定しています。各段階に 「スペシャリストレーン」と「マネジメントレーン」 を並置し、専門性深化と組織牽引の双方を同等に評価します。
- スペシャリスト:技術・知識を深掘りし、市場価値を高めることでプロダクト競争力を担保。
- マネジメント:チームビルディングや事業運営を通じて成果を最大化し、組織拡大を加速。
横移動は自己申告制とし、同一等級でのレーン変更を認可することで柔軟なキャリア探索を可能にします。初期フェーズでは、職種・職群別ラダーではなく包括ラダーを採用。
二軸評価で総合評価を決定
- バリュー評価
経営陣が掲げる3~5つのコアバリューに対し、社員自身や上司が行動事例を半期ごとに収集し、それを基に定性評価を行います。例えば「挑戦」の場合は、新規市場開拓に立候補し仮説検証を実施した行動、「チームワーク」の場合は後輩育成や他部署連携による成果などを評価対象とします。
- 成長目標達成度
個人が設定したストレッチな成長目標について、成果指標および学習指標の双方から達成度を測定します。例えば、成果指標は『新規顧客獲得数』『売上成長率』『プロジェクト納期遵守率』など定量的アウトプットを指し、学習指標は『新技術の習得』『資格取得』『改善提案の実行』など挑戦や学習プロセスを評価対象とします。
営業職であれば「成果指標=新規顧客3社獲得」「学習指標=営業スクリプト改善提案を1件提出」、エンジニア職であれば「成果指標=担当機能を期日内にリリース」「学習指標=新フレームワーク習得と社内勉強会で発表」といった形です。
上記2軸を3段階(High/Meet/Low など)で判定し、掛け合わせた9セル・マトリクスにより総合評価を決定。これにより「成果は高いがバリュー逸脱」などの偏りを可視化し、組織文化と事業成果を同時に守ります。
※評価サイクルは原則「半期(6か月)」単位。ただし成長スピードが速いベンチャー企業では四半期ごとに中間レビューを行い、必要に応じて柔軟に前倒し評価する運用も可能。
成長基準連動の昇給ルール
各等級には「到達すべき成長基準」を定義したチェックリストを別途作成。半期評価時にチェックリストの充足率をチェックし、基準値(例えば70%)超で昇給判定の対象とします。
「バリュー評価」や「成果」だけでなく、 成長のプロセス(基準到達度)を昇給の必須条件 にすることで、組織全体に一貫性と公平性を担保します。
この仕組みであれば、たとえば「成果は優秀だが成長基準に全く取り組んでいない人」や「行動評価は高いが基本スキル未達の人」が自動的に昇給対象外になるため、シンプルな人事制度として一貫性と成長促進効果が高まります。
さらに、マトリクスによる総合評価と連動し、昇給判定の透明性と一貫性を担保します。評価プロセスはシンプルかつフラットに設計され、上司と部下の1対1のフィードバックや定期的な評価ミーティングを通じて実施されます。
導入ステップ
本導入プロセスは一例として「制度プロトタイプ構築 → 社内レビュー → パイロット → 本格導入 → 改善」という流れを想定しています。スモールスタートから検証を重ねて確実に制度を定着させる標準的なイメージです。
- 制度プロトタイプ構築
当社コンサルタントが経営陣・人事と伴走し、等級・評価指標・昇給率を最小限の制度プロトタイプとしてドラフト化。以降のステップで検証・改良を重ねていきます。
- 社内レビュー
チーム代表者によるプロトタイプのレビューを通じて、改善要望を収集。当社コンサルタントがそれを反映。
- パイロット適用
正式運用前に必要に応じて全社員または一部部門にパイロット適用し、評価プロセスや運用上の課題に関するデータを取得。
- 本格展開
当社コンサルタントがパイロット結果を分析し改善提案を反映、翌期より正式制度として導入。
※導入ステップは各社の文化や体制などに合わせた調整が必要となります。

期待される効果
- 事業スピード向上:成長目標の導入により、仮説検証のプロセスが加速
- 離職率低下:透明性とフェアネスが心理的安全性を高め、定着率向上
- 学習投資効率化:レーン別スキル要件が明確になり、研修投資が的確化
- カルチャー醸成:バリュー評価が行動規範定着を促し、組織の一体感を創出
【クライアント事例】
あるベンチャー企業では、シンプル人事制度を導入し、期待行動と成長目標を明確化。それに基づく評価と報酬ルールを運用した結果、社員の満足度と生産性が向上し、業績も加速度的に伸長しました。
本制度は 「等級・キャリアラダー×デュアル」 というシンプルな骨格と、バリュー×成長目標の二軸評価によって、社員の成長ベクトルを事業成長へダイレクトに同期させます。昇給の仕組みはシンプルなマトリクスで一元管理でき、導入後も半期ごとに素早く改修可能。
変化に強いシステムほど、構造は単純である。貴社の次なる非連続成長を支えるエンジンとして、シンプル人事制度をぜひご活用ください。
人事制度の設計全般について詳しく知りたい方は、人事制度コンサルティングの総合案内ページをご覧ください。
また、人事制度と一体不可分の関係にある人事評価制度について詳しく知りたい方は、人事評価制度コンサルティングの総合案内ページをご覧ください。