デザイナー人事制度
デザインを戦略的に活用し競争力を強化するためには、活躍するデザイナーを育成する、新たな将来価値を生み出す3つの特徴を持つ戦略的なデザイナー人事制度の整備が有効です。
活躍するデザイナーを育成する人事制度
ジャパン・クリエイティブへの期待
近年、デザインが必要とされる領域はさらに拡大し、多様な分野で新たなデザインニーズが高まっています。デジタル技術の進化やAI、IoTの普及により、ユーザビリティやユニバーサルデザインの重要性がこれまで以上に認識されています。これらのデザインは、製品だけでなくサービスやシステム全体においても不可欠であり、生活の質を向上させる普遍的な価値を持っています。
これは、日本が世界に先駆けてグローバルスタンダードを確立する大きなチャンスです。超高齢社会を迎える日本は、多様なユーザーのニーズに応えるデザインを追求することで、新たな価値を創出できます。また、近年の自然災害やパンデミックの経験から学び、レジリエンス(回復力)を高めるデザインや、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みも重要性を増しています。これらの課題に取り組む日本のデザイナーへの期待が高まっています。
ユーザビリティやユニバーサルデザインの実現には、従来とは異なる感性やスキルが求められます。例えば、異なる世代や多様なバックグラウンドを持つ人々の生活・身体・コミュニケーションに関する深い理解と、課題発見能力が必要です。そのためには、新しい領域の知識や多角的な視点による分析が不可欠です。
また、個人や社会の行動・心理を理解し考察することは、デザインの社会的役割を深めることにつながります。デザイン思考やサービスデザインの手法を活用し、ユーザー体験全体を最適化することで、生活者に真のメリットや価値を提供できます。これらのアプローチは、デザインが社会問題の解決や持続可能な発展に貢献できることを示しています。
業績貢献度の高いデザイナーは、社会貢献度も高いデザイナーであり、企業にはそのような人材の育成と活用が求められます。特に、SDGs(持続可能な開発目標)の達成やESG(環境・社会・ガバナンス)経営が重視される中、デザイナーが果たす役割はますます重要になっています。企業は積極的な人材育成を通じて、未来を切り拓くクリエイティブな人材を育てる必要があります。
デザイナーの先進的なスキルと組織戦略
現時点における企業戦略に沿ったデザイン制作と貢献力の高いアイデアの提案と実現がデザイナーに求められている成果です。しかし、独自の世界観を創り出したり、圧倒的な提案力、確実なイニシアチィブを持つためには現有スキルでは不足している場合があります。
例えば、これから主流となる競争相手や市場を考えた場合、「予想・予測力」「正確な直感力」「抽象的理解力」などは特に重要なスキルであり、ポテンシャルがあればトレーナビリティが高いといえるでしょう。
また、デザイナーの場合は特にオリジナルプランでトレーニングを行うことによって、潜在的なスキルや新たな感覚、個性的な感性が顕在化することが多く、結果的にアウトプットの豊かさにつながります。トレーニングは単独でプログラムするよりも目標や成果とクロスオーバーさせる方法が有効であり、人事評価とリンクさせることにより格段の進化を望むことが可能です。
さらに、デザイン部門におけるスキルを分析し、中長期市場予測や世界動向(流行、購買などをテーマに設定)に照準を合わせた時の「獲得すべきスキル」そのものを組織戦略にするなど、デザイン部門ならではのダイレクトアプローチが高い成果に結びつきます。
3つの特徴を持つ戦略的デザイナー人事制度
デザインを戦略的に活用し競争力を強化するためには、まずデザイナーの可能性を想像し、高いパフォーマンスを期待するべきです。そのためには活躍するデザイナーを育成する人事制度の整備が急務です。新しいデザインのニーズとともにデザイナーの活動領域が拡大し、求められる役割や成果も流動的で広範囲に及ぶことが予想されます。
これを好機ととらえ、新たな将来価値を生み出すためには3つの特徴を持つ戦略的な人事制度が最も有効です。
- 新しいプロフィールを持つ人材の育成
- デザイナースキル+○○スキル
- 計画的で独自性の高い人材活用
- +○○スキルによる新たな役割
- 人事制度の完全Visual化
- 意識改革とキャリアデザイン
新しいプロフィールを持つ人材の育成
デザイナーの活動範囲の拡大を想定し、これまでとは異なるカテゴリーのスキルを開拓・強化することで、多面的な業績貢献力を持つ人材を育成し、競争力を強化します。
例えば、デザイナーとしてのクリエイティブスキルに加え、プログラミングやデータ分析、AI・機械学習の基礎知識などのテクノロジースキルを高めることで、デジタル時代に適応した「テック系デザイナー」として新たな活躍が期待できます。また、UX/UIデザインやサービスデザインの知識を持つことで、ユーザー体験全体を設計できる人材として価値が高まります。
組織は多様なスキルを持つ人材が多いほど、変化への対応力が高く、新しい発想の実現が容易になります。専門分野の組織でありながら、「クロスファンクショナルチーム」で総力戦に挑むのが新しいデザイン部門のイメージです。
中長期計画や戦略、市場ニーズの予測などからストーリーを展開し、現有スキルと新たに獲得するべきスキルを具体的に抽出します。バラエティに富んだスキルセットがデザイン部門を大きく進化させます。
計画的で独自性の高い人材活用
従来の概念にとらわれない新しい人材マネジメントの仕組みは、一人ひとりの視野を広げ、モチベーションを向上させ、多くのビジネスチャンスを創り出します。
例えば、新しく獲得したスキルによる新しい役割の付与やステップアップのためのプロジェクトへの参加など、オリジナリティのある人材活用はデザイナーの個性と先進性を引き出します。
大勢のメンバーが新しいルールを経験する機会が多いほど組織は活性化し、コミュニケーション力と集中力が高まります。また、これによりデザイン部門の組織風土が影響しているいくつかの「組織力のウィークポイント」が自然に解消するなど、課題の解決にもつながります。
人材活用には計画性が必要であり、活用の目的や理由、納得性が重要です。人材活用の結果は必ず評価・フィードバックを行い、自己成長やキャリアアップにつながるようにアドバイスを繰り返すことにより、全体的なスキルの底上げが実現します。
人事制度の完全Visual化
人事制度のコンテンツを分かり易く可視化することにより、多くのメリットを享受することができます。ルールを共有しているという認識は集団活動をスムーズにし、協働意識を自然に醸成します。
また、各階層における求められる役割や言動、行動、期待される成果、必要なスキルセットやチャレンジなどを見える化することにより、自主性・自立心が生まれ自己成長力が育まれます。
さらに、組織の中における自分のスタンス、やるべきこと、将来性などが見えることによって、自分なりの目標を持つことやキャリアデザインを考えることが可能になり、一人ひとりの仕事に対する満足度(QOL)が高まります。
例えば、これらのメリットを研修などによって生み出そうとすると、多大な時間、コスト、労力が必要になりますが、人事制度を可視化するだけでも多くのことが確実に好転します。
人事制度を完全にvisual化することは最も合理的なマネジメントといえるでしょう。
デザイナー人事制度に特有のインセンティブ
デザイナー人事制度は単なる利益配分のルールではなく、デザイナーのタレントが生かされ、モチベーションが向上する魅力的な仕組みであることが重要です。
デザイナーに求められる成果は、様々な制約の中で目的を達成する最適なデザインの制作ですが、仕事によってはデザイナーのチャレンジや高いクオリティが予想以上に大きな成果を生むことがあります。
デザイナーにとって、このような成功体験は実力による「幸運」であり、その「幸運」を生み出す仕組みを作り、多くのメンバーの参加とチャレンジ回数を増やすことが、企業成長につながる「デザイナーを活躍させる人事制度」です。
具体的には、成果に応じた報酬だけでなく、クリエイティブな挑戦を支援する制度や、社内外での発表の場を提供するなど、デザイナーが自らの才能を発揮できる環境を整えることが重要です。また、心理的安全性の高い職場環境を構築し、失敗を恐れず新しいアイデアに挑戦できる文化を育むことも大切です。
デザイナーにとって最もモチベーションが向上し、大きく成長する瞬間とは、自分の創作によってもたらされる様々な影響(利益、感動、大勢の共感、価値観の変化ほか)が大きく、それを自分でコントロールしていると感じられる時です。自信のある仕事や意欲をかき立てられる仕事に自分の意思でチャレンジできることは、デザイナーにとってのインセンティブです。
デザイナー人事制度には人材の特性を活かしたアプローチからデザイナーの「ライフワーク」を充実させるアイデアがあります。