病院・クリニックを取り巻く環境の変化
近年、病院・クリニックを取り巻く環境はかつてないほど急速に変化しています。少子高齢化の進展、医療技術の高度化、診療報酬制度の改定、地域包括ケアの推進、さらには人材不足や女性職員のキャリア形成支援など、数多くの課題が同時に押し寄せています。こうした変化の中で、病院・クリニックが持続的に成長し、地域社会から信頼される存在であり続けるためには、「人事制度」を単なる処遇や給与の仕組みにとどめず、経営基盤を支える成長エンジンとして再定義することが不可欠です。そのために、当社では、病院・クリニックの特性に応じた制度設計を実現するための人事制度コンサルティングを提供しています。
人事制度の役割:組織の未来を形づくる成長の仕組み
経営環境が変化しても、人々が求める「安心」「信頼」「共感」は揺るぎない価値として存在します。医療サービスにおいては、患者とその家族が安心して治療を受けられる信頼関係が不可欠であり、職員一人ひとりの誠実な対応と専門性の発揮がその土台となります。高いクオリティの医療を安定的に提供するためには、最も大切な資産である「職員」の力を最大限に引き出す必要があります。医療の質を支えるのは、診療現場で日々患者と向き合い、知識や技術を磨き続ける職員一人ひとりです。
人事制度は、その職員が持つ可能性を「成果」に転換し、誇りを持って活躍し続けられるように導くための仕組みです。つまり、制度そのものが「成長の方向性を明示する羅針盤」であり、未来に向けて病院・クリニックを持続的に発展させるための基盤といえます。
職員にとって“最高の病院・クリニック”とは、働きがいがあり、努力や貢献が正当に認められ、自らの所属に誇りを感じられる組織です。その実現を支える人事制度こそ、現代の病院・クリニックに求められているものです。
制度目的の定義:医療の質と組織の持続性の両立
- 良質な医療サービスの安定提供:人事制度を通じて人材を適材適所に配置し、業務の質を安定的に維持する。
- 多職種連携の支援:医師・看護師・技師・事務職など多様な職種が互いの役割を尊重し、協力し合える基盤を整備する。
- キャリアパスの提示:将来像が明確に描けるようにラダーや昇進ルートを提示し、職員が自律的に成長を選択できる環境をつくる。
- 人材定着と育成を促す評価制度:努力や成果が正しく認められ、適切な処遇やキャリア機会につながる仕組みを整える。
- 柔軟性・持続可能性の確保:診療報酬制度の改定や労働環境の変化に即応できるよう、人事制度そのものに見直し・改善の余地を内包させる。
- 地域医療への貢献:組織内にとどまらず、地域包括ケアや在宅医療といった社会的要請に応えられる人材を育成する。
これら6つの目的は次の三層構造に整理できます。
制度目的の三層構造
経営戦略
良質な医療サービスの安定供給
多職種連携の支援
柔軟性と持続可能性の確保
職員の成長
キャリアパスの提示
人材定着と育成を促す評価制度
社会的使命
地域医療への貢献
このように、制度目的を「経営戦略」「職員の成長」「社会的使命」という三層に結び付けることで、医療の質と組織の持続性を両立させる人事制度が実現します。単なる管理の仕組みではなく、医療の未来を共に築くプラットフォームとして機能することが理想です。
等級・キャリアラダー設計:専門性とチーム力の両立
等級制度は、専門性の深化とチーム医療の協働性を両立させるために、職種ごとに最適化する必要があります。
- 医師・看護師・リハビリ職・医療技術職・医療事務などの職種別ラダー(専門性重視)
- 管理職ラダーと専門職ラダーのデュアルトラック設計
- 経験年数・資格・学会認定と連動したグレード設計
- 患者対応力・チーム調整力などソフトスキル評価の導入
例えば看護師の場合、日本看護協会のラダーの枠組みを参考にしながら、基礎的実践(L1)から組織的視点を担う看護師長レベル(L5)までを段階的に設計することで、成長の道筋を明示できます。同様に、医師や技師、事務職についても、専門性を高めつつ組織運営に貢献できるラダーを整備することで、多様なキャリアの実現を支援することが可能です。
等級 | レベル定義 | 主な役割 |
---|---|---|
L1 | 基礎的な看護実践ができる | 指導を受けながら業務を遂行 |
L2 | 標準的な看護が自立してできる | 業務を円滑にこなせる |
L3 | 後輩指導やチーム連携ができる | プリセプター・サブリーダー等 |
L4 | 部署の運営に関わる管理ができる | 主任・看護師長補佐/認定看護師 |
L5 | 組織全体を見据えた看護実践を担う | 看護師長/専門看護師 |
評価制度設計:専門職と組織貢献の両軸を可視化
病院・クリニックにおける評価制度は、「個人の専門性の深化」と「チーム医療への貢献」を両立させることが重要です。
主な評価領域(例)
- 専門スキル:医療技術の精度、手技・処置・判断の正確性
- 知識・学習:資格取得、学会発表、eラーニング活用
- 患者対応・接遇:傾聴姿勢、説明力、インフォームドコンセント
- チーム連携・貢献:カンファレンスでの発言、後輩支援、協働姿勢
- 安全・ルール遵守:医療安全への配慮、報告体制の遵守
- 自己研鑽・姿勢:向上心、問題意識、業務改善提案
設計上の工夫
- 360度評価(管理職・中堅層向け)の導入
- 部署目標と個人目標の連動
- 行動特性評価+業績評価のハイブリッド型
- 業績連動よりも成長指標重視(離職防止・定着促進に有効)
定量成果だけでなく成長プロセスや協働姿勢も評価対象とすることで、公平性と納得感を高め、組織学習を促進します。
グロースマインドセットを育む仕組み
変化の激しい環境下で持続的に成長するためには、職員一人ひとりにグロースマインドセットを根付かせることが欠かせません。
- 課題を迅速に先読みし、解決できる行動力
- ポテンシャルを成果に速やかに転換する風土
- 問題解決をエネルギッシュに続ける創造性豊かな体質
- 常に高みを目指し、自らの知識と技術を更新し続ける人材を輩出する
人事制度は、教育(ラーニングデザイン)・評価・処遇を連動させることで、個人の成長を組織の成果へと結び付けます。
パーパスやMVVの浸透を支える制度
病院・クリニックが掲げるパーパス(存在意義)やMVV(Mission / Vision / Values)は、人事制度を通じて日常の行動に結び付ける必要があります。パーパスやMVVを行動特性評価に反映する、評価基準にMVVへの貢献を含める、研修で理念を体感させるといった仕組みにより、理念は単なるスローガンではなく「行動指針」として根付いていきます。その結果、組織は強い結束力と柔軟性を持ち、環境変化の中でも信頼され続ける病院・クリニックとなることができます。
現代的な追加視点
現代の病院・クリニックが直面する課題に応えるためには、従来の制度設計に加えて以下の視点を組み込むことが重要です。
-
働き方改革と勤務環境整備:長時間労働の是正、夜勤シフトの適正化、休暇取得の推進など。
(例)夜勤専従看護師制度を導入し、勤務希望に応じた柔軟なシフト体制を構築。 -
ダイバーシティ&インクルージョン:女性職員のキャリア形成支援、外国人医療従事者の活躍推進、障がい者雇用など。
(例)女性医師のキャリア継続支援として短時間常勤制度を導入。
こうした視点を人事制度に反映させることで、組織は変化に適応し、持続可能で魅力ある病院・クリニックとして地域社会に貢献し続けることが可能となります。
職員とともに未来を築く人事制度
病院・クリニックの持続的成長は、経営戦略や診療体制だけでなく、職員一人ひとりの力を最大化する人事制度にかかっています。人事制度を「成長の仕組み」として設計することで、職員が誇りを持ち、力を発揮し続けることができ、結果として医療の質と組織の持続性を両立させることが可能となります。
「職員にとって最高の病院・クリニック」を実現するために、人事制度は未来に向けた重要な投資であり、信頼される医療を築くための原動力です。
人事制度の設計全般について詳しく知りたい方は、人事制度コンサルティングの総合案内ページをご覧ください。
また、人事制度と一体不可分の関係にある人事評価制度について詳しく知りたい方は、人事評価制度コンサルティングの総合案内ページをご覧ください。