士業事務所の人事制度

士業事務所の競争激化・AI導入の時代において、持続的成長を実現するには、人事制度の見直しと理念(パーパス・MVV)の浸透が不可欠です。信頼構築、専門性強化、働きがいのある職場づくりを支える人事制度設計の要点と、士業ならではの価値提供の本質に迫ります。

現代の士業環境と人事制度の必要性

士業事務所間の競争激化と再編の進展

近年、士業業界では業務のデジタル化や標準化が進み、単純な業務処理の付加価値が低下する一方で、クライアントからは専門的かつ高付加価値な提案力・助言力が強く求められるようになっています。このような環境変化にともない、士業事務所間の競争は激しさを増しており、都市部を中心に合併・再編の動きも加速しています。事務所として持続的に成長していくためには、経営戦略や組織基盤の強化に加え、「人と組織の質を高める仕組み=人事制度」の再構築が不可欠です。

急速な変化への対応力

近年はAI(人工知能)の登場により、士業事務所に求められるサービスの質や提供方法にも大きな変化が生じています。AIによって定型的な書類作成やリサーチ業務などが自動化される一方で、クライアントは士業に対して「人にしかできない付加価値」、すなわち判断力、倫理観、コンサルティング能力、パートナーシップ性といった要素をより強く求めるようになってきました。そのため、士業事務所が今後も選ばれ続けるためには、AIと人間の役割を明確に分け、人的サービスの価値を高めていく必要があります。

近年、法律・会計・税務をはじめとした士業を取り巻く経営環境は、極めて早いスピードで変化しています。デジタル技術の普及、社会情勢や法改正の頻発、そして顧客のニーズ多様化など、従来のやり方や発想だけでは十分に対応できない局面が増えています。こうした状況下では、事務所としての経営戦略を再考することが重要になると同時に、それを支える「人材マネジメント」も抜本的に見直す必要があります。私たちは人事コンサルタントとして、人事制度設計コンサルティングの多角的なアプローチにより、士業事務所の皆様が持続的に成長を遂げるための人事制度の在り方を、総合的かつ実践的にご提案しています。

信頼される士業事務所を支える人材と環境の重要性

士業においては、専門性の高さと同じくらい、クライアントとの信頼関係の構築が業務の本質となります。とりわけ税務・法務・労務といったセンシティブな情報を扱う場面では、クライアントとの継続的な対話や適切なコミュニケーションを通じて、安心感と信頼を提供する力が欠かせません。この信頼は、単なる知識や手続きの正確性だけでなく、人間性や共感力、対応姿勢といった要素によって育まれるものです。

士業事務所の強みを最大限に活かすためには、「社員にとって最高の事務所」であることが欠かせません。高い専門性を持つスタッフや、多様な業務をサポートする補助スタッフが活き活きと働き、やりがいを感じ、心から誇りを持てる環境を整備することが、人事制度の第一の役割です。楽しさや感動、人とのつながりといった人間本来の欲求は、働くモチベーションを高め、社員の成長要因を刺激します。さらに、社員一人ひとりの創造力やホスピタリティが高まるほど、事務所のサービス品質も飛躍的に向上し、クライアントとの信頼関係をより強固に築くことにつながるでしょう。

信頼関係される士業事務所を創る人事制度

人事制度が果たす役割と設計のポイント

組織の方向性と評価基準の明確化

どれほど優秀な有資格者やスタッフを揃えたとしても、方向性の定まらない組織では、その力を十分に発揮することはできません。人事制度が果たすべきもう一つの大きな役割は、「組織の成長に向けた明確な道しるべを示す」ことです。たとえば評価基準が曖昧であれば、社員はどんな行動が事務所の目指す姿に貢献するのか分からず、不安を感じたりモチベーションを損なったりする可能性があります。逆に、明確な目標や価値観が示され、努力や貢献が正しく評価される仕組みが整っていれば、社員は進むべき方向を迷わずに学びと行動を重ね、「一流」を目指して成長し続けることができます。

パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透

近年では、事務所のパーパス(存在意義)やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などの理念・価値観を組織全体で共有し、日々の業務や行動に反映させることが不可欠になっています。特に士業事務所においては、クライアントの大切な経営や生活に関わる法務・税務・労務といった分野を担っており、その行動の根底に強い倫理性や公共性が求められます。こうした業種特性を踏まえると、単に業績を上げるための制度設計ではなく、「なぜこの仕事をしているのか」「どのような価値を社会に提供しているのか」といったパーパスの浸透こそが、人事制度の根幹にあるべきです。

人事制度は、これらの理念を具体的な評価基準や行動指針に落とし込むことで、全社員が同じ方向を向いて仕事に取り組めるようにする仕組みです。パーパスやMVVが明確であればあるほど、士業事務所の全員が使命感や共通の価値観を抱きながら、専門性を活かして質の高いサービスを提供できるようになります。

グロースマインドセットと倫理の両立

「グロースマインドセット」を事務所全体で醸成するためには、常に変化する環境を先読みし、問題や課題を迅速に捉えて解決へ導く知恵と行動力が重要です。士業事務所では、法令遵守や顧客情報の取扱いなど厳格な倫理観が求められる一方で、変革のスピードも求められます。そこで、人事制度においては「案件評価と倫理遵守のバランス」をしっかりと設計することが不可欠です。売上や利益といった数値的成果だけでなく、コンプライアンスやクライアント満足度など、士業ならではの専門倫理を評価項目に組み込み、総合的に評価を行うことで、現場での行動指針が明確になります。このような仕組みによって、社員は高いモラルを保ちながら、案件獲得や業務効率化といった事務所の発展にとどまらず、顧客との信頼関係をより強固に築く担い手としても、積極的に役割を果たすようになります。

人事制度の目的と長期的な発展

スペシャリスト育成とパートナーシップ制

士業事務所では有資格者と補助スタッフが共に力を合わせ、サービス品質を高めていくことが極めて重要です。特に注目すべきは、「スペシャリスト育成とパートナーシップ制の確立」です。資格取得支援や研修機会の充実によって専門性を磨きながら、長期的にキャリアを築ける道筋を示すことが、組織の信頼性と魅力の両面を高めます。有資格者が専門性を軸に中核的な役割を担い、補助スタッフが実務面から支える連携体制が整えば、両者が補完し合いながら成果を生み出す環境が確立され、結果として事務所全体の持続的な発展と経営の安定につながります。

組織全体の成果向上と未来への投資

社員の「ポテンシャル(可能性・資質)をパフォーマンス(成果・業績)に転換する」ためには、単に評価項目や報酬体系を整えるだけでなく、育成制度やサポート体制を備えた人事制度が必要です。問題や課題に直面したときにこそ、社員がエネルギッシュに解決策を生み出し、前向きに行動を起こす「元気で創造性豊かな企業体質」を育てることが、士業事務所の不動の未来を築く鍵となります。人事制度がそのようなチャレンジ精神を推奨・評価する仕組みになっているほど、事務所全体のイノベーション力は高まっていくでしょう。

人事制度の目的としては、まず「専門性とクライアントサービス品質の向上」が挙げられます。士業においては専門知識やスキルが事務所の大きな価値源泉となるため、これを最大限に活用し高品質かつ安定的なサービスを提供し続けることが重要です。また、「組織の安定と長期的な人材育成」も大きな目的の一つです。有資格者とサポートスタッフが協力し合い、業務を円滑に遂行できる基盤をつくることで、持続的な経営が実現します。

結果として、会社業績は社員一人ひとりのパフォーマンスが集結したものだと再認識する必要があります。人事制度は「社員の潜在能力をどれだけ引き出し、成果として結実させるか」という点において極めて重要な役割を担います。こうした取り組みこそが士業事務所における「最高の事務所」を実現し、着実に未来を切り拓く鍵なのです。


私たちはこれまで多くの士業事務所の人事制度設計をサポートし、培った知見とノウハウを活かしてオーダーメイドの制度構築を行っております。社員が「働きがいがあり、活躍できる事務所だ」と感じ、努力や貢献が評価され、自社の一員であることを誇りに思えるような体制づくりは、かけがえのない投資です。その結果としてクライアントサービスの向上と事務所全体の成長が同時に実現し、未来を見据えた経営の基盤が整います。

これからの時代、人事制度は単なる労務管理ツールではなく、「未来に向けて人と事業を成長させる戦略的な仕組み」として位置づけられることが望まれます。社員一人ひとりの力を最大化し、その総合力で社会に貢献する士業事務所をつくり上げるために、私たちは人事コンサルティングを通じて全力でサポートいたします。