急速に変化する経営環境と人事制度の重要性
近年、外食チェーンを取り巻く経営環境は、かつてないスピードで変化しています。消費者ニーズの多様化、健康志向や環境配慮といった価値観の変化、人手不足や人件費高騰、さらにはデジタル技術の進化によるオペレーション革新など、経営に影響を及ぼす要因は枚挙にいとまがありません。
こうした状況下で持続的な成長を遂げるためには、単に売上や店舗数の拡大を目指すだけでなく、**「社員にとって最高の会社」**を実現するための人事制度の構築が不可欠です。
人事制度が果たすべき役割
経営環境は常に変化しますが、人々が求める「楽しさ」「感動」「人とのつながり」は、時代を超えて幸福をもたらす普遍的な価値です。そして、それらを実現するのは、最前線で働く社員一人ひとりのアイデアとホスピタリティにほかなりません。お客様からの信頼を維持・構築し、いつでも期待以上のクオリティを提供し続けるためには、働く社員の成長要因を引き出し、成果に結びつける仕組みが必要です。
当社が提唱する成長主義人事制度は、社員が持つ可能性(ポテンシャル)を最大限に引き出し、それを成果(パフォーマンス)に転換できる風土をつくることを目的としています。挑戦を恐れず、改善を続け、誇りを持って活躍する社員が多数存在することこそが、企業の持続的成長と競争優位性の源泉です。
さらに、変化の激しい外食産業においては「グロースマインドセット」を支える制度設計が不可欠です。失敗を恐れず新しい挑戦に取り組む姿勢を企業文化として根付かせるために、以下の要素を制度に組み込みます。
- 能力開発プログラムの強化
実務で活用できるようにするための能力開発プログラムを整備します。評価制度において、学習意欲やスキル習得を評価項目に組み込みます。例えば、データ分析スキルの習得を目的としたデジタル研修や、ホスピタリティ向上のためのロールプレイング研修への参加度合いを評価・報酬に反映させる仕組みを構築します。
- 現場リーダー育成の強化
店舗を円滑に運営するためには、現場をまとめるリーダーの存在が欠かせません。評価制度を通じて、課題解決能力やチームマネジメント能力を持つリーダー候補を適切に評価・昇進させます。具体的なトレーニング成果やリーダーシップの発揮度合いを評価基準に含めることで、リーダー育成の効果を高めます。
- ウェルビーイングの促進
社員の心身の健康と幸福度を促進する仕組みを制度に組み込み、ウェルビーイングを重視する文化を醸成します。これにより、生産性と創造性の向上を図り、多様な働き手を惹きつけ、人手不足の解消にも寄与します。

制度目的の再定義
外食チェーンの持続的成長を実現する人事制度の目的は、業態特性を踏まえて再定義する必要があります。
まず、外食産業はアルバイト・パート比率が高く、平均勤続年数が短いため、人材の採用・育成・定着のサイクルを効率化することが重要です。同時に、多店舗展開を前提に、調理・接客・衛生管理・売上管理のオペレーションを標準化し、誰が運営しても同等の顧客体験を提供できる体制が求められます。
さらに、営業時間の長さやシフト勤務の特性に合わせた公平で柔軟な勤務管理、そして接客スキルやホスピタリティが企業ブランド価値に直結することを踏まえ、サービス品質の維持・向上を制度の柱に据える必要があります。
これらの背景を踏まえた制度目的は以下のとおりです。
- 人材定着率の向上
働きやすさとキャリアパスの明確化により、離職防止と人材安定を図る。
- サービス品質と店舗運営力の標準化
誰が担当しても同じレベルのサービスを提供できる再現性の高い運営基盤を確立。
- 現場主体の成長促進
店長やスーパーバイザーを育成の主役とし、現場主導で人材を成長させる。
- 即戦力化のスピード最大化
短期間での戦力化を可能にする評価・昇格・教育の仕組みを整備。
等級制度(キャリアパスモデル)
外食チェーンにおける等級制度は、職群ごとに明確な役割・到達基準・昇格要件を設定し、キャリアの見える化を図ります。これにより、社員は自身の成長段階を把握し、次のステップに必要なスキルや成果を明確に理解できます。
- 店舗オペレーション系:スタッフ → サブリーダー → 店長 → エリアマネージャー
- 調理専門系:キッチンスタッフ → チーフ → 調理長
- 本部・管理系:スタッフ → リーダー → 課長 → 部長 → 本部長 ※店舗経験者を優先登用し、現場理解を基盤に業務を遂行
さらに、アルバイトから正社員への転換ルートを制度化し、モチベーションと定着率を高めます。昇格要件はスキルマップで可視化し、調理技術・接客品質・売上管理・人材育成などの到達基準を明確にします。
等級 | 主な役割 | 主な到達基準 | 昇格要件 |
---|---|---|---|
スタッフ (OP1) |
接客・調理の基本業務を遂行 | マニュアル通りの作業ができる | 業務習熟テスト合格 |
サブリーダー (OP2) |
一部シフト管理、後輩指導 | 複数ポジションをこなせる、多能工化50%以上 | OJT評価B以上 |
店長 (OP3) |
店舗運営全般、売上・FL管理、人材育成 | 月次予算達成率90%以上、衛生・CS基準達成 | 店長研修修了+評価B以上 |
エリアMgr (OP4) |
複数店舗マネジメント、店長育成 | エリア予算達成率90%以上、離職率基準達成 | 上位管理職面接合格 |
評価制度
外食チェーンでは、職群ごとに業務内容や成果指標が異なるため、評価制度もその特性に合わせた設計が不可欠です。当社が提唱する成長主義人事制度では、全職群共通の評価枠組みに「学習・成長評価」を加え、社員の挑戦姿勢やスキル習得、改善行動を評価対象としています。これにより、短期的な業績だけでなく、長期的な人材力強化と組織文化の醸成を同時に実現します。
評価項目 | 評価指標 | ウェイト |
---|---|---|
業績評価 | 売上達成率、FLコスト管理、客数・客単価 | 45 % |
サービス品質評価 | 接客態度、CS調査結果、衛生検査結果、クレーム率 | 25 % |
人材育成評価 | 部下・後輩育成人数 、育成計画達成率、離職率改善 | 10 % |
学習・成長評価 | 新スキル習得、挑戦行動、接客改善行動 | 10 % |
業務改善評価 | 廃棄削減率、作業効率改善提案数 | 10 % |
パーパスやMVVの浸透を支える人事制度
企業のパーパス(存在意義)やMission・Vision・Values(MVV)は、組織の羅針盤です。特に外食チェーンが抱える深刻な人材不足を解消するためには、多様性を尊重したインクルーシブな職場環境の構築が不可欠です。多様なバックグラウンドや視点を持つ人材を積極的に採用・育成することで、人手不足を補いながら顧客の多様なニーズに応えることが可能になります。
そして、その実現には、MVVやパーパスを評価制度に組み込み、日常業務や行動規範に浸透させることが極めて重要です。理念を行動へと翻訳し、価値観を共有する文化を醸成することで、多様な人材が能力を最大限発揮し、持続可能な成長を支える組織基盤が形成されます。
未来志向の人事制度の構築へ
外食チェーンの経営は、激しい競争と環境変化の中で常に進化を求められています。しかし、その中心にあるのは「人」が生み出す価値です。人事制度は、その価値を最大限に引き出し、持続可能な成長へとつなげる経営の土台でなければなりません。社員一人ひとりが自己実現を果たしつつ、組織のパーパスやMVVに沿って成長できる仕組みこそ、未来志向の人事制度の本質です。当社は、社員のエンゲージメントと顧客満足度を同時に高める革新的な制度設計を通じて、外食産業の持続的成長と社会的価値創出を支援いたします。
人事制度の設計全般について詳しく知りたい方は、人事制度コンサルティングの総合案内ページをご覧ください。
また、人事制度と一体不可分の関係にある人事評価制度について詳しく知りたい方は、人事評価制度コンサルティングの総合案内ページをご覧ください。