毎月勤労統計
厚生労働省が毎月発表している賃金、労働時間及び雇用の変動に関する雇用指標に人事コンサルタントの視点からコメントを付けて掲載しています。
2024年9月分
Summary
9月の実質賃金は前年比0.1%減と2か月連続でマイナスとなった。8月と比べて物価上昇率が低下し、賃上げ効果で所定内給与の伸びが加速したものの、残業時間の減少で所定外給与がマイナスに転じたのが響いた。
労働者1人当たりの平均名目賃金を示す現金給与総額は前年比2.8%増の29万2551円となり、33か月連続でプラスとなった。伸び率は8月と横ばいだった。
春闘・賃上げを反映して、所定内給与が2.6%増の26万4194円、ボーナスなど特別に支払われた給与が16.1%増の9193円と好調だった。消費者物価指数も8月の3.5%から9月は2.9%に低下した。
一方、所定外給与は8月の1.7%増から9月は0.4%減の1万9164円に低下した。カレンダー要因による残業時間の減少が主な理由と厚労省ではみている。
Comment
9月の実質賃金が前年比0.1%減少した背景には、物価上昇が和らいだものの、所定外給与(残業代など)の減少が影響している。賃上げやボーナスの増加により、名目賃金は堅調に推移しているが、残業時間の減少が総賃金に響き、実質的な購買力の回復には至っていない。このような状況下では、従業員の働きがいを高めるための非金銭的な報酬施策に関する人事コンサルティングが求められる。特に、所定外給与に依存しない安定した収入確保を目的に、基本給のさらなる底上げや業績連動型報酬の導入が効果的である。また、残業時間削減を推進しつつ、生産性向上や業務効率化を図る支援を通じ、労働環境の改善を企業に提案すべきである。これにより、長期的な雇用安定と従業員の満足度向上を図る戦略が重要である。
(2024年11月7日発表)
2024年8月分
Summary
8月の名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月から0.6%減少し、3か月ぶりにマイナスに転じた。賞与による伸びの効果が前月より縮まったほか、物価の上昇幅が拡大したことが響いた。
実質賃金は5月まで過去最長の26カ月連続マイナスを記録した。賞与が給与総額に占める割合が大きい6〜7月は、賞与の伸びが好調だったことからプラスを記録したが、8月はその影響が一巡したことから再びマイナスとなった。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は3.0%増の29万6588円となり、32か月連続で増加した。現金給与総額のうち、賞与などの「特別に支払われた給与」は2.7%増の1万2951円となり、前月の伸び幅(6.6%)より縮小した。
現金給与総額の内訳をみると、基本給を中心とする「所定内給与」が3.0%増の26万4038円で、31年10か月ぶりの高い伸び率だった。
Comment
8月の実質賃金が前年同月比0.6%減少し、再びマイナスに転じたことは、物価上昇の圧力が賃金の購買力を削いでいる現状を示している。賞与の伸びが一巡したことや、残業時間の減少も影響し、総労働時間の減少幅が実質賃金の減少を上回っている。しかし、時間あたりの実質賃金がプラスとなっているのは、春闘の賃上げが効いているとみられる。人事コンサルティングにおいては、基本給の堅実な上昇が続く中で、企業に対して持続的な賃金改善と生産性向上策のバランスを取る提案が求められる。また、インフレ環境下での従業員の生活支援策や、賞与の支給基準の見直しも重要なテーマとなると考えられる。
(2024年10月8日発表)
2024年7月分
Summary
7月の実質賃金は前年同月から0.4%増加した。プラスは2か月連続となるが、7月の実質賃金のプラス幅は前月から0.7ポイント縮小した。夏の賞与など「特別に支払われた給与」の伸び率が大きかったことが寄与した。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は3.6%増の40万3490円となり、2年7か月連続で増加した。伸び率は7月の消費者物価の上昇率(3.2%、持ち家の家賃相当分を除く総合指数)を上回った。現金給与総額のうち特別に支払われた給与は6.2%多い11万8807円だった。
現金給与総額の内訳では、基本給を中心とする「所定内給与」が前年同月比2.7%増の26万5093円となった。ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率が平均5%を超えた24年の春季労使交渉(春闘)の結果が反映されて伸び率は31年8か月ぶりの大きさとなった。所定内給与に残業代や休日手当などを加えた「きまって支給する給与」は2.5%増の28万4683円だった。
Comment
7月の実質賃金は前年同月比で0.4%増加し、名目賃金も3.6%の伸びを示したが、物価上昇が依然として大きな懸念材料である。特に、夏の賞与が実質賃金増加の主因であり、賞与の影響が減少する8月以降は、物価高が続く限り実質賃金の改善が難しい状況が予測される。人事コンサルティングにおいては、賃金水準だけでなく、従業員の購買力や生活コストを考慮した総合的な報酬戦略の策定が必要である。また、ベースアップの効果が明確に現れている今、企業は賃金体系の見直しとともに、社員のモチベーションを維持するために非金銭的報酬(ワークライフバランスの改善やキャリア開発機会)の強化も検討すべきである。
(2024年9月5日発表)
2024年6月分
Summary
6月の名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月より1.1%増加した。賞与など「特別に支払われた給与」が大きく伸びたことにより、2年3か月ぶりに実質賃金の増減率がプラスに転じた。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は4.5%増の49万8884円だった。増加は2年6か月連続となる。6月の消費者物価指数は3.3%上昇したが、名目賃金がそれを上回って伸びた。
現金給与総額の内訳をみると、夏の賞与などを含む「特別に支払われた給与」が7.6%増の21万4542円と大きく伸びた。基本給を示す所定内給与は2.3%増の26万4859円だった。増加は2年8か月連続で、伸び率は29年8か月ぶりの高い水準だった。所定内給与の高い伸びは春闘を反映したものだが、6月の基本給の上昇率は物価上昇になお追いついていない。
Comment
6月の実質賃金が2年3か月ぶりに増加へ転じたのは、名目賃金の上昇が物価上昇を上回ったことによる。特に「特別に支払われた給与」が大きく貢献しているが、所定内給与の上昇が物価上昇に追いついていない点が重要な課題である。企業においては、持続可能な賃金上昇とインフレ対策を両立させることが求められる。人事コンサルタントとしては、企業に給与構造の見直しやインフレ連動型の賃金制度の導入などを提案し、従業員の購買力の維持・向上を促す必要がある。
(2024年8月6日発表)
2024年5月分
Summary
5月の基本給にあたる所定内給与は前年同月比2.5%増加した。賃上げが進んだことで、伸び率は31年4か月ぶりの高さだった。実質賃金は過去最長の26か月連続マイナスだったが、下落幅は縮まりつつある。
5月の基本給は26万3539円だった。伸び率は4月から0.7ポイント上昇し、1993年1月以来の高水準となった。基本給に各種手当などを加えた現金給与総額(名目賃金)は29万7151円で前年同月比1.9%増加した。
春季労使交渉(春闘)では2023年の賃上げ率が3%台、24年は5%台と続き、賃上げの動きが反映されつつある。
パートタイム労働者の時間当たり給与は1328円で前年同月比4.0%増となった。2023年6月以降、前年同月比の増加率は常に3%を超えている。
物価変動を考慮した実質賃金は1.4%減だった。物価上昇に給与の伸びが追いつかない状況が続くが、マイナス幅は縮小しつつある。
就業形態別の現金給与総額は、正社員ら一般労働者が2.1%増の37万8803円、パートタイム労働者が3.2%増の10万8511円だった。
Comment
5月のデータは、賃上げの進展が見られる一方で、物価上昇の影響が依然として大きいことを示している。基本給やパートタイム労働者の時給が高水準を維持し、名目賃金は上昇しているものの、実質賃金は26か月連続でマイナスであり、企業にとっては従業員の購買力維持が課題である。人事コンサルティングの視点からは、企業はインフレの影響を考慮し、基本給のみならず手当や福利厚生を拡充することで、実質的な報酬水準を上げる工夫が必要である。また、パートタイム労働者の待遇改善に引き続き注力し、柔軟な労働環境の整備を進めることで、多様な人材の定着と活用を促進することが重要である。
(2024年6月5日発表)
2024年4月分
Summary
4月の基本給にあたる所定内給与は前年同月比2.3%増えた。企業の賃上げが広がり、伸び率は29年6か月ぶりの高水準となった。実質賃金は過去最長の25か月連続マイナスだった。
4月の基本給は26万4503円だった。伸び率は3月から0.6ポイント上昇し、1994年10月以来の高水準となった。
基本給に各種手当などを加えた現金給与総額(名目賃金)は29万6884円と2.1%増えた。伸び率は3月から1.1ポイント拡大し、10か月ぶりの高水準だった。
実質賃金は0.7%減となった。3月の2.1%減から改善したものの、依然マイナスが続いた。算出時の指標となる持ち家の家賃換算分を除く消費者物価指数は2.9%上昇だった。物価の高騰に賃金上昇が追い付かない状況が続いている。
Comment
基本給の2.3%増加は、企業の積極的な賃上げ策と経済の底堅さを示しているが、実質賃金の25カ月連続マイナスは、物価上昇が賃金増を上回る厳しい現実を浮き彫りにしている。特に、光熱費やガソリン価格の上昇がさらなる負担となることが予想される。人事コンサルタントとしては、企業が持続可能な成長を図るために、賃金だけではなく、生産性向上や福利厚生についてのコンサルティングを強化する必要がありそうだ。
(2024年6月5日発表)
2024年3月分
Summary
3月の1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比2.5%減だった。実質賃金の減少幅は2月のマイナス1.8%から拡大し、24か月連続のマイナスはリーマン・ショック前後を超えて、比較可能な1991年以降の記録で過去最長を更新した。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は増加が続き、3月は前年同月比0.6%増の30万1193円だった。伸び幅は2月から0.8ポイント低下した。基本給にあたる所定内給与は1.7%増、残業代など所定外給与は1.5%減だった。賞与など特別に支払われた給与は9.4%減だった。
1人当たりの総実労働時間は2.7%減の136.2時間だった。一般労働者は2.6%減の161.2時間、パートタイム労働者は2.0%減の79.7時間だった。
現金給与総額を産業別で見ると、金融・保険業、生活関連サービス業、情報通信業の伸びが目立った半面、飲食サービス業等が前年同月比で大きく減少した。
Comment
賃金の伸びが物価上昇に追いつかない状況が続いている。働き方改革の影響により、所定外給与や労働時間の減少が賃金伸びを抑えた一方、産業ごとの賃金格差も明確になった。人事コンサルティングでは、柔軟な労働時間管理やリスキリングプログラムの導入など、生産性を高める人事戦略を強化する必要がある。
(2024年5月9日発表)
2024年2月分
Summary
2月の1人あたりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月から1.3%減少した。実質賃金の減少率は1月の1.1%から拡大した。23か月連続のマイナスはリーマン・ショック前後の2007年9月〜09年7月以来で、比較可能な1991年以降の過去最長に並んだ。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は上昇が続き、2月は1.8%増の28万2265円なり、26か月連続でプラスとなった。実質賃金を算出する際の指標となる物価の上昇率が1月から0.8ポイント拡大し、賃金を目減りさせた。現金給与総額のうち、基本給に当たる所定内給与は2.2%増加した。
就業形態別では正社員ら一般労働者が2%増の36万616円、パートタイム労働者が3.1%増の10万5268円だった。
Comment
2月の実質賃金が前年同月比1.3%減少し、23か月連続のマイナスとなった。この状況下で、人事コンサルタントとして顧客企業に対し、物価上昇の影響を考慮して基本給の上昇をベースとした賃金の見直しを勧めているが、特に中小企業を取り巻く環境には厳しいものがあり、そう簡単に実現できる話しではない。
(2024年4月8日発表)
2024年1月分
Summary
1月の実質で前年同月比0.6%減少した。これでマイナスは22か月連続となった。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は前年同月比2%増の28万2270円だった。2022年1月から25か月連続のプラスとなっている。現金給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は1.4%増となり、9か月連続1%台の伸びになった。
就業形態別で見ると、正社員ら一般労働者は2.3%増の36万9239円、パートタイム労働者は2.2%増の10万1358円だった。業種別では電気・ガス業が9.6%増と高い伸びを示したほか、情報通信業が4.8%増、金融業・保険業が4.7%増だった。
Comment
物価高に賃金上昇が追いつかない状況が続いているが、名目賃金が上昇傾向にあること、実質賃金を算出する指標となる物価の上昇が昨年12月より0.5ポイント下がったことから、賃金の目減り幅が縮小した。
(2024年3月7日発表)