全米雇用報告(2023年)
ADP(オートマティック・データ・プロセッシング)から毎月発表される米国の雇用に関する指標に人事コンサルタントの視点からコメントを付けて掲載しています。
2023年12月分
Summary
12月の米民間雇用者数は16万4000人増加し、昨年8月以来の大幅な増加となり、市場予想を上回った。11月は10万1000人増(速報値10万3000人)に下方修正された。
娯楽・ホスピタリティーや教育・医療サービスといったサービスセクターで特に増加が目立った。一方で製造業は引き続き減少した。
賃金の伸びがさらに減速した。同じ職にとどまった人の賃金は中央値で前年同月比5.4%、転職した人の賃金は8%それぞれ上昇となり、いずれも2021年以来の低い伸びとなった。
Comment
全米雇用報告は市場予想を上回る結果となったが、特にサービスセクターでの増加が顕著であり、人事コンサルタントとして注目すべきは、サービス業における雇用動向の変化である。製造業の雇用が減少する中、教育や医療サービスなど人材需要の高まりが見られるため、これらの業界に特化した人事戦略が求められている。賃金の伸びの鈍化も、人事コンサルティングの視点から重要な論点であり、企業は雇用環境の変化に対応した労務管理の見直しが必要とされている。
(2024年1月4日発表)
2023年11月分
Summary
11月の米民間雇用者数は10万3000人の増加となり、市場予想を下回った。10月は10万6000人増(速報値11万3000人増)に下方修正された。
教育や医療サービス、貿易、輸送といったサービスセクターの伸びが全体を押し上げたが、製造業や建設業、娯楽・ホスピタリティーでの削減が伸びを抑えた。
同じ職にとどまった人の賃金は中央値で前年同月比5.6%、転職した人の賃金は8.3%となり、それぞれ上昇したものの、いずれも2021年以来の低い伸びだった。
Comment
こうした状況を受け、人事コンサルタントとしては、企業が人材確保に一層の工夫と戦略的アプローチを求められると考える。特に賃金や職場環境の改善策が急務である。
(2023年12月6日発表)
2023年10月分
Summary
10月の米民間雇用者数は11万3000人の増加となり、市場予想を下回った。
業種別では、サービス業が10万7000人増。財生産部門は6000人増だった。雇用増は事業所の規模や業種を問わず全般に及び、教育・医療サービスや貿易・運輸がけん引した。新型コロナウイルス禍後の景気回復の原動力となってきた娯楽・ホスピタリティーは、2022年初頭以来の小幅な伸びとなった。一方、専門職・ビジネスサービスは人員を削減した。
賃金の伸びがさらに縮小していることを示した。同じ職にとどまった人の賃金は中央値で前年同月比5.7%、転職した人の賃金は8.4%にそれぞれ上昇した。いずれも2021年以降で最も低い伸びとなった。
Comment
サービス業や財生産部門を含め、多岐にわたる産業での雇用増を示しており、市場予想を下回ったとはいえ、景気回復のための潜在力を有していると見ることができる。特に、教育・医療サービスや貿易・運輸部門が引き続き強い成長を示していることから、人事コンサルタントはこれらの業界に特化した戦略を提案すべきである。
(2023年11月1日発表)
2023年9月分
Summary
9月の米民間雇用者数は8万9000人増となり、市場予想を大幅に下回った。前月は18万人増(速報値17万7000人増)に上方修正された。
娯楽・ホスピタリティーが伸びをけん引し、専門職・ビジネスサービス、製造業、貿易・運輸業の落ち込みを相殺した。
規模別では、従業員500人以上を抱える企業が雇用を8万3000人の削減となり、コロナ禍初期より後で2番目に大きな落ち込みとなった。
同じ職にとどまった人の賃金は中央値で前年同月比5.9%上昇となり、ここ2年で最も小幅な伸びとなった。転職した人の賃金(中央値)の上昇率も9%となり、2021年6月以来の弱い伸びにとどまった。
Comment
9月の全米雇用報告は、人事コンサルタントとして、今後の企業戦略に影響を与える重要な指標である。娯楽・ホスピタリティー分野の伸びにより他部門の落ち込みが相殺されたが、特に500人以上の大企業での雇用削減が顕著であるため、人事コンサルティングの分野では組織再編や戦略的な人材配置のニーズが増加する可能性が高い。また、賃金の伸びが鈍化する中で、人材採用戦略にも柔軟性が求められる。
(2023年10月4日発表)
2023年8月分
Summary
8月の米民間雇用者数は17万7000人の増加となり、市場予想を下回った。前月は37万1000人増(速報値32万4000人増)に上方修正された。
教育と医療サービスで特に雇用が増加した。貿易・輸送でも大きく増加した。一方で娯楽・ホスピタリティーの雇用は2022年3月以来の低い伸びとなった。
同じ職にとどまった労働者の8月賃金は、前年同月比で5.9%増加。2021年以来の低い伸びだった。転職した労働者の場合、年間報酬の増加率は中央値で9.5%だった。
Comment
人事コンサルタントの視点から見ると、教育や医療サービス分野における雇用の増加が注目される。これらの分野では特有の成長ポテンシャルが示唆されており、戦略的な人材配置とスキルの継続的な向上が求められるであろう。また、娯楽・ホスピタリティー部門における雇用の伸び悩みは、新たな人事戦略の導入を必要としている。
(2023年8月30日発表)
2023年7月分
Summary
7月の米民間雇用者数は32万4000人の増加となり、市場予想を大幅に上回った。
雇用の増加は広範な業種に及んだが、特に娯楽・ホスピタリティーで20万1000人増加した。一方、製造業では3万6000人減少した。
規模別では、従業員250人未満の企業に増加が集中し、従業員500人以上の企業では3か月連続で人員が減少した。
賃金の伸びは7月も減速した。同じ職にとどまった労働者の7月賃金は、前年同月比で6.2%の増加となり、2021年11月以来の低い伸びとなった。
Comment
7月の米国民間雇用者数の増加は、特に娯楽・ホスピタリティー業界に顕著であり、経済回復の勢いを示している。しかし、製造業の雇用減少と大企業での人員削減は、経済の不均衡や将来の不安定性を反映している。人事コンサルタントとしては、特に中小企業に対する人材戦略の強化が重要である。人材獲得と保持のために、賃金だけでなく、柔軟な働き方やキャリア開発機会の提供を提案するべきである。また、賃金伸び率の減速に対応するため、従業員のエンゲージメント向上や非金銭的報酬の充実が課題となる。
(2023年8月3日発表)
2023年6月分
Summary
6月の米民間雇用者数は49万7000人の増加となり、市場予想を大幅に上回った。5月は27万8000人増から26万7000人増に下方修正された。
雇用は建設や貿易・運輸、娯楽・ホスピタリティーといった比較的広い範囲で増加した。地域別では南部を除いた全地域で増加。特に従業員250人未満の企業で大幅に増加した。
一方で賃金の伸びは減速した。同じ職にとどまった労働者の6月賃金は前年同月比で6.4%の増加となった。転職した労働者の場合、年間報酬の増加率は中央値で11.2%となり、いずれも2021年以来の鈍いペースだった。
Comment
これらのデータは、中小企業に特化した戦略的な人事コンサルティングの重要性を示唆している。賃金の伸びの鈍化が見られる中で、企業は適切な報酬戦略と人材育成を急ぐ必要がある。人事コンサルタントは、これらの動向を踏まえた綿密な分析と対策を提供することが求められている。
(2023年7月6日発表)
2023年5月分
Summary
5月の米民間雇用者数は27万8000人の増加となり、市場予想を大幅に上回った。前月は29万1000人増(速報値29万6000人増)に下方修正された。
雇用増は娯楽・ホスピタリティーが牽引し、鉱業や建設業、貿易・運輸でも増加した。増加は従業員500人未満の企業に集中。南部が唯一、減少した地域となった。
2500万人余りの給与を分析した結果、賃金の伸びは減速した。転職せず同じ職にとどまった労働者の報酬は前年同月比6.5%増加した。転職した労働者の年間報酬は中央値で12.1%増加したが、前月からは1ポイント低下し、2021年10月以来の低い伸びにとどまった。
Comment
雇用の増加は娯楽・ホスピタリティー業界が牽引し、鉱業や建設業、貿易・運輸でも顕著に見られた。特に従業員500人未満の企業で増加が集中している。しかし、賃金の伸びは減速し、転職者の報酬増加率も低下した。人事コンサルタントとして、このデータは中小企業の採用戦略の強化が求められることを示しており、人材確保のための柔軟な賃金設定や福利厚生の見直しが必要であることを示唆している。人事コンサルティングを通じて、企業の競争力を高める支援が不可欠だ。
(2023年6月1日発表)
2023年4月分
Summary
4月の米民間雇用者数は前月から29万6000人の増加となり、市場予想を大幅に上回った。前月は14万2000人増(速報値14万5000人増)に下方修正された。
4月は雇用の伸びが加速した一方、賃金の伸びは鈍化した。仕事を変えた人の賃金の伸び率は中央値で前年比13.2%だった。3月の14.2%増から低下し、2021年11月以来の低い伸びとなった。
業種別では、4月の雇用増加分の半分余りを娯楽・ホスピタリティーが占めた。教育・医療サービス、建設でも力強い伸びが見られた。
一方で製造業と金融業では雇用が減少した。規模別では全ての規模で雇用が増加した。
Comment
人事コンサルティングにおいては、賃金の鈍化を踏まえた柔軟な人材管理が求められる。特に、娯楽・ホスピタリティー分野の活況を活かし、適切な人材確保と定着策を講じることが重要である。製造業と金融業に対しては、業界特有の課題に対応した戦略を提案し、労働力の最適化を図るべきである。企業の規模に関わらず、全ての規模で雇用が増加しているため、組織全体の人材戦略を見直し、持続可能な成長を支援する包括的なアプローチが求められる。
(2023年5月3日発表)
2023年3月分
Summary
3月の米民間雇用者数は14万5000人の増加となり、市場予想を下回った。前月は26万1000人増(速報値24万2000人増)に上方修正された。
業種別では娯楽・ホスピタリティーや貿易・運輸・公益、建設での雇用増加が目立った。製造業や金融、専門職・ビジネスサービスでは減少した。
地域別で減少したのは南部のみだったが、全米の一部中規模企業でも雇用が削減された。
同じ仕事にとどまった人は3月に賃金が前年比6.9%上昇となり、約1年ぶりの低い伸びとなった。仕事を変えた人では賃金の伸び率は中央値で前年比14.2%となり、昨年1月以来の小幅な伸びとなった。
Comment
3月の米国民間雇用者数は14万5000人増と市場予想を下回った。娯楽・ホスピタリティーや建設業では増加が顕著であるが、製造業や金融、専門職・ビジネスサービスでは減少が見られた。賃金上昇率も低下傾向にある。この状況を踏まえ、人事コンサルティングでは、成長分野での人材確保戦略の強化が必要である。また、賃金上昇が鈍化する中での従業員満足度向上策や、リストラ対応としてのメンタルヘルスケアと再就職支援も重要である。企業が持続可能な人材戦略を構築できるよう支援すべきである。
(2023年4月5日発表)
2023年2月分
Summary
2月の米民間雇用者数は24万2000人増となり、市場予想を上回った。前月は11万9000人増(速報値10万6000人増)に上方修正された。
業種別では娯楽・ホスピタリティーと金融関連で特に雇用の伸びが大きかった。また従業員が50人以上の企業では強い伸びを示したが、50人未満の小規模企業では5か月連続で雇用が減少した。
労働力に対する需要は供給を上回り続けており、レイオフはこれまでのところテクノロジーと金融の業界にほぼとどまっている。コロナ禍には人員採用の面で厳しい状況があったサービス業でも、雇用が増えつつある。
同じ仕事にとどまった人は2月に賃金が前年比7.2%上昇となり、1年ぶりの低い伸びとなった。仕事を変えた人では賃金の伸び率は中央値で前年比14.3%となり、伸びがやや鈍化した。
Comment
2月の米民間雇用者数の増加は、特に娯楽・ホスピタリティーや金融関連業界で顕著であり、経済の回復を反映している。しかし、小規模企業での雇用減少が続いていることは、経済全体のバランスが取れていないことを示唆する。人事コンサルタントとしては、特に小規模企業に対する雇用維持戦略の強化が求められる。これには、採用プロセスの効率化や柔軟な労働条件の提供が含まれるべきである。また、賃金の伸び率が鈍化している中で、従業員のエンゲージメント向上やキャリア成長支援が重要な課題となる。
(2023年3月8日発表)
2023年1月分
Summary
1月の米民間雇用者数は10万6000人の増加となり、市場予想を大幅に下回った。前月は25万3000人増(速報値23万5000人増)に上方修正された。
企業の規模別では、従業員20人未満の小規模企業で7万人の減少となり、雇用の減少が目立った。
財生産部門では、製造業が2万3000人増加した一方で、建設業では2万4000人の減少となった。サービス部門では娯楽・ホスピタリティー業が9万5000人、金融業が3万人増加した一方で、貿易・運輸・公益事業が4万1000人減少した。
転職しなかった雇用者の賃金は前年同月比で7.3%増加し、伸び率は前月から横ばいとなった。転職した雇用者は、新たな職場での年俸が15.4%(中央値)増となり、前月に比べて加速した。
Comment
1月の米民間雇用者数は市場予想を大幅に下回り、小規模企業や特定業界での雇用減少が懸念される。一方で、製造業や娯楽・ホスピタリティー業、金融業では雇用が増加し、依然として強い需要が見られる。人事コンサルタントとしては、小規模企業に対するサポートが急務であり、人材の定着と競争力強化を図るため、効果的な採用戦略や福利厚生の充実を提案すべきである。また、業界ごとの雇用トレンドを踏まえ、製造業やサービス業での人材育成プログラムやキャリアパスの明確化が重要である。賃金上昇が続く中、非金銭的インセンティブの導入も併せて検討すべきである。
(2023年2月1日発表)