全米雇用報告
ADP(オートマティック・データ・プロセッシング)から毎月発表される米国の雇用に関する指標に人事コンサルタントの視点からコメントを付けて掲載しています。
2025年3月分
Summary
3月の米国民間部門の雇用は前月比15万5000人増加し、市場予想を上回った。前月は8万4000人増(速報値7万7000人増)に上方修正された。
業種別では、製造業が2万1000人増と2か月連続で堅調であった一方、建設業の増加は6000人にとどまり、天然資源分野では3000人の減少が見られた。サービス業では13万2000人の雇用増となり、特に金融活動(3万8000人増)と専門・ビジネスサービス(5万7000人増)が全体をけん引した。
企業規模別には、小規模事業所(1~49人)で5万2000人、中規模(50~499人)で4万3000人、大規模(500人以上)で5万9000人の雇用がそれぞれ増加した。
賃金に関しては、前年同月比で定着労働者の賃金は4.6%上昇し、転職者は6.5%の上昇となった。ただし、転職者の賃金プレミアムは1.9ポイントとなり、2024年9月以来の最低水準であった。業種別では、製造業4.8%、金融業5.3%、教育・医療サービス4.7%などが顕著であった。企業規模別では、従業員500人以上の大企業での上昇率が4.9%と高かった。
Comment
3月の米民間部門雇用者数は15万5000人増と市場予想を上回り、特に金融活動や専門・ビジネスサービスが雇用の伸びを牽引した。製造業も2か月連続で堅調な伸びを示す一方、建設業や天然資源分野では伸び悩みが見られた。企業規模別では大・中・小規模企業全てで雇用が増加しており、広範な回復傾向がうかがえる。賃金面では、定着労働者で4.6%、転職者で6.5%の上昇が見られたが、転職プレミアムは1.9ポイントと2024年9月以来の低水準となり、転職市場の過熱感はやや後退している。人事コンサルタントとしては、特に金融やビジネスサービス分野での人材確保に向けた競争力ある報酬制度の設計が重要となる。転職プレミアムの縮小は、労働者の職場選択が報酬以外の要素(柔軟な働き方、職場文化、成長機会)へシフトしている兆しでもあり、企業はこれらの要素を強化する必要がある。
(2025年4月2日発表)
2025年2月分
Summary
2月の米民間雇用者数は7万7000人増となり、市場予想を大幅に下回った。1月は18万6000人増(速報値18万3000人増)に上方修正された。
産業別では、貿易や運輸、公益(3万3000人減)、教育、ヘルスケア(2万8000人減)、専門・ビジネスサービス(2万7000人減)などサービス部門での雇用減少が目立った。財生産部門の雇用は建設業が2万6000人増となるなど4万2000人増となり、2022年10月以来の大幅な伸びを示した。
事業の規模別では、20人未満の小企業のみが減少となり、小規模企業の雇用が減少傾向にあることが示された。
賃金の伸びは前月とほぼ同様だった。転職した労働者の賃金は6.7%上昇した。同じ職にとどまった労働者の賃金は4.7%上昇した。
Comment
2月の米民間雇用者数は昨年7月以来の小幅な伸びにとどまった。労働需要の鈍化と整合する結果となった。人事コンサルタントとしては、サービス業の雇用減少に対応し、企業が労働力の最適化を図るための施策を提案すべきである。特に、小規模企業に対しては、競争力のある報酬制度や、スキル開発・研修の強化を通じた人材定着戦略の構築が必要である。一方、建設業など成長分野では、労働力確保を迅速に進めるための採用プロセスの効率化や、外国人労働者の活用など、長期的な人材戦略の再構築が求められる。また、賃金上昇が継続する中で、企業は給与以外の福利厚生やキャリア成長機会の提供を強化し、従業員のモチベーション向上と離職防止に努めるべきである。
(2025年3月5日発表)
2025年1月分
Summary
1月の米民間雇用者数は前月比183,000人増加し、市場予想を上回り雇用の伸びは堅調であった。昨年12月は17万6000人増(速報値は12万2000人増)に上方修正された。年収の中央値は前年同月比4.7%増加し、安定した賃金上昇が続いている。
雇用を業種別に見ると、貿易・運輸・公共事業が5万600人増、レジャー・ホスピタリティが5万4000人増となる一方、専門・ビジネスサービスは1万4000人増、製造業では1万3000人減となるなど雇用の伸びが鈍化した。
企業規模別の賃金増加率では、中規模・大規模企業(従業員50人以上)が5.0%以上、小規模企業(49人以下)が2.9%だった。
Comment
1月の米国民間雇用者数は18万3000人増と堅調な伸びを示し、特に消費者向けサービス産業が雇用拡大を牽引した。一方で、製造業は1万3000人減少し、ビジネスサービスの伸びも鈍化しており、産業間での雇用格差が拡大している点が注目される。企業規模別では中規模企業が最も多くの雇用を創出した。賃金は前年同月比4.7%増加し、転職者の賃金は6.8%の伸びを記録しているものの、小規模企業では2.9%にとどまり、規模による格差が浮き彫りとなった。人事コンサルタントとしては、製造業や小規模企業における採用難を考慮し、労働力確保のための戦略的なアプローチを提案すべきである。具体的には、製造業においては自動化やスキル開発プログラムを活用し、労働生産性を向上させる施策が求められる。また、賃金上昇率の低い小規模企業では、給与以外のインセンティブ(リモートワークの導入、福利厚生の拡充)を強化し、人材の流出を防ぐことが重要である。さらに、レジャー・ホスピタリティ業界の成長を活かし、求職者の流動性を高めるためのキャリア支援や労働市場のマッチング強化が必要となる。
(2025年2月5日発表)