全米雇用報告

ADP(オートマティック・データ・プロセッシング)から毎月発表される米国の雇用に関する指標に人事コンサルタントの視点からコメントを付けて掲載しています。

2025年1月分

Summary

1月の米民間雇用者数は前月比183,000人増加し、市場予想を上回り雇用の伸びは堅調であった。昨年12月は17万6000人増(速報値は12万2000人増)に上方修正された。年収の中央値は前年同月比4.7%増加し、安定した賃金上昇が続いている。

雇用を業種別に見ると、貿易・運輸・公共事業が5万600人増、レジャー・ホスピタリティが5万4000人増となる一方、専門・ビジネスサービスは1万4000人増、製造業では1万3000人減となるなど雇用の伸びが鈍化した。

企業規模別の賃金増加率では、中規模・大規模企業(従業員50人以上)が5.0%以上、小規模企業(49人以下)が2.9%だった。

Comment

1月の米国民間雇用者数は18万3000人増と堅調な伸びを示し、特に消費者向けサービス産業が雇用拡大を牽引した。一方で、製造業は1万3000人減少し、ビジネスサービスの伸びも鈍化しており、産業間での雇用格差が拡大している点が注目される。企業規模別では中規模企業が最も多くの雇用を創出した。賃金は前年同月比4.7%増加し、転職者の賃金は6.8%の伸びを記録しているものの、小規模企業では2.9%にとどまり、規模による格差が浮き彫りとなった。人事コンサルタントとしては、製造業や小規模企業における採用難を考慮し、労働力確保のための戦略的なアプローチを提案すべきである。具体的には、製造業においては自動化やスキル開発プログラムを活用し、労働生産性を向上させる施策が求められる。また、賃金上昇率の低い小規模企業では、給与以外のインセンティブ(リモートワークの導入、福利厚生の拡充)を強化し、人材の流出を防ぐことが重要である。さらに、レジャー・ホスピタリティ業界の成長を活かし、求職者の流動性を高めるためのキャリア支援や労働市場のマッチング強化が必要となる。

(2025年2月5日発表)

2024年12月分

Summary

12月の米民間雇用者数は12万2000人増となり、市場予想を下回って、8月以来の小幅な伸びとなった。

業種別では強弱まちまちだった。教育・医療サービス(5万7000人増加)、建設(2万7000人増加)、娯楽・ホスピタリティー(2万2000人増加)で伸びが目立った。一方で、製造業(1万1000人減少)、天然資源・鉱業(6000人減少)、専門職・ビジネスサービス(5000人減少)では雇用が落ち込んだ。

賃金の伸びも鈍化した。転職した労働者の賃金は7.1%上昇に減速し、同じ職にとどまった労働者の賃金は4.6%上昇と、2021年半ば以来の低い伸びとなった。

地域別では、西部が全体の伸びをけん引。規模別では、雇用創出の大部分を従業員数500人以上の企業が占めた。

Comment

12月の米民間雇用者数が市場予想を下回り、業種ごとの雇用動向にも明暗が分かれる現状は、米国経済が依然として不確実性を抱えていることを示唆している。賃金の伸びが鈍化した点も、企業の採用戦略や労働者の転職意欲に微妙な影響を及ぼす可能性が高い。こうした局面で重要なのは、人事コンサルティングを通じた先見性ある人材活用策の構築である。人事コンサルタントは、業種別の差異を踏まえた柔軟な人員配置や報酬制度の再検討、さらには新たな人材育成プログラムの提案など、多角的かつ戦略的なアプローチを通じ、企業の持続的成長と雇用安定の双方を支援すべきである。

(2025年1月8日発表)

2024年11月分

Summary

11月の米民間雇用者数は14万6000人増となり、市場予想をやや下回った。10月は18万4000人増(速報値は23万3000人増)に下方修正された。

特に大規模事業所(従業員500人以上)が120,000人の増加を牽引し、全体の増加に大きく寄与した。一方、小規模事業所(従業員1~49人)は17,000人の減少を記録した。

産業別では、建設業が30,000人の増加で好調だった一方、製造業は26,000人減少し、特に弱いパフォーマンスを示した。サービス提供業では、教育・医療サービスが50,000人増加し、顕著な伸びを見せた。

地域別では、南部が61,000人増加し、他の地域をリードした。具体的には、南大西洋地域が42,000人の増加を記録した一方で、東南中部は11,000人の減少となった。

賃金動向では、職場を変えなかった労働者の年収が前年同月比4.8%増加し、職場を変えた労働者は7.2%増加した。特に建設業と教育・医療サービス業で5%以上の賃金上昇が見られた。

Comment

11月の米民間雇用者数は14万6000人増と市場予想を下回り、小規模事業所での雇用減少が全体の伸びを抑えた。一方、大規模事業所や建設業、教育・医療サービスが堅調で、特に南部地域が労働市場をけん引したことが特徴的だ。製造業の雇用減少や東南中部での雇用減少が示すように、地域や業界ごとに格差が拡大している。賃金動向では職場を変えた労働者の賃金上昇率が高く、人材流動性が一定水準を保っていることがうかがえる。人事コンサルタントとしては、特に中小規模事業者向けに、競争力のある賃金や福利厚生の改善策を提案すべきである。また、製造業の回復支援として、スキルアッププログラムやテクノロジーを活用した労働力効率化の推進が求められる。さらに、地域特性に応じた採用戦略の立案と、成長が顕著な建設業や医療分野での人材供給強化を重点的に支援すべきである。

(2024年12月4日発表)

2024年10月分

Summary

10月の米民間雇用者数は23万3000人の増加となり、市場予想を上回った。9月は15万9000人増(速報値14万3000人増)に上方修正された。

10月は教育・医療サービス、貿易・運輸の分野で特に大きく伸びた。雇用が減少したのは製造業のみだった。

9月から10月にかけては米南東部に2つのハリケーンが襲来したほか、ボーイングで数千人の従業員がストライキを実施した。そうした状況下でも米国の労働市場が健全な状態を維持したことを示唆している。

賃金の増加ペースは鈍化し、2021年以来の低い伸びとなった。転職した人の賃金は前年同月比6.2%増、同じ職にとどまった人の賃金は4.6%増だった。雇用者数は、地域別では南部が最も大きく増加。事業主の規模別では、従業員が500人以上の企業で最も伸びた。

Comment

10月の米民間雇用は予想を上回る23万3000人の増加を記録し、特に教育・医療サービスおよび貿易・運輸分野が牽引したことが注目に値する。南東部のハリケーンやボーイングのストライキといった困難にもかかわらず、労働市場が安定している点は、米国経済の底堅さを示している。一方で賃金の伸びが鈍化しており、人材確保の面で新たな工夫が必要である。人事コンサルタントとしては、賃金以外の魅力を高めた採用戦略を提案すべきである。特に南部や大規模企業での雇用増加を踏まえ、各地域や企業規模に応じた人材開発プランの策定や福利厚生の充実が重要である。

(2024年10月30日発表)

2024年9月分

Summary

9月のADP全国雇用報告によると、米国の民間部門の雇用は14.3万人増加した。これは、過去5か月間の雇用増加の鈍化からの回復を示しており、唯一の情報部門を除いて、すべての産業で雇用が増加した。特に製造業は、4月以来の雇用増加となり、建設業や天然資源・鉱業などの生産部門で顕著な増加が見られた。

産業別では、サービス提供部門が10.1万人の増加を記録し、特にレジャー・ホスピタリティ業が3.4万人増加した。その他のサービス業、教育・医療サービス、金融活動、専門職・ビジネスサービスもそれぞれ増加している。一方で、情報部門は1万人の雇用減少となった。

賃金の伸びは若干鈍化しており、雇用継続者の賃金は前年比4.7%増加し、転職者の賃金は6.6%の増加にとどまった。特に転職者の賃金増加率の鈍化が顕著であり、前月の7.3%から低下している。

Comment

9月の民間部門での雇用増加は14.3万人となり、特に製造業や建設業での回復が注目される。一方、情報部門での雇用減少や賃金増加率の鈍化が見られる点は、労働市場の不安定さを示している。人事コンサルタントとしては、賃金の伸びが鈍化している今こそ、企業が賃金以外の福利厚生やキャリアパスの提供を強化し、従業員のモチベーション維持を図ることを提案する必要がある。また、サービス業や製造業での需要に応じた採用計画の最適化や、特に賃金上昇率が鈍化する転職者市場におけるタレントアクイジション戦略の再構築が重要だ。

(2024年10月2日発表)

2024年8月分

Summary

8月の米国の民間部門の雇用は99,000件増加した。

雇用の増加は、特に建設業や金融活動、教育・医療サービスで顕著であり、それぞれ27,000件、18,000件、29,000件の増加が見られた。一方、製造業や専門職・ビジネスサービス部門では減少が見られ、それぞれ8,000件、16,000件の減少となった。

地域別では、南部が55,000件の増加で最大の伸びを示し、西部が20,000件、北東部が24,000件の増加となった。中小企業(従業員1~49人)では9,000件の減少があったが、中規模企業(50~499人)では68,000件、大企業(500人以上)では42,000件の増加が確認された。

また、賃金の上昇は安定しており、雇用を維持した労働者の賃金は前年比4.8%増、転職者の賃金は7.3%増であった。

Comment

人事コンサルタントとして注目すべきは、地域と業界、企業規模による違いである。建設業や医療サービスでの雇用の増加は、これらの分野での労働需要が高まっていることを示唆しており、これに対する採用戦略の強化が必要である。一方、製造業や専門職分野での減少傾向に対しては、人材の再配置やスキル再教育のプログラムが不可欠となる。また、中小企業での減少を踏まえ、賃金上昇率を活用した競争力向上策や、リテンション戦略を見直すことが重要である。

(2024年9月5日発表)

2024年7月分

Summary

7月の民間部門の雇用は12万2000人の増加となり、市場予想を下回った。6月は当初の15万人から15万5000人に修正された。

業種別では、サービス業が8万5000人増加し、特に貿易・運輸・公益事業が6万1000人増加しました。一方、製造業は4000人減少しました。地域別では、南部が5万5000人増加し、中でも南大西洋地域が3万2000人増加しました。

規模別では、中規模企業(50-499人)が7万人増加し、特に50-249人の企業で5万5000人増加しました。小規模企業(1-19人)は1万5000人増加しましたが、20-49人の企業は2万2000人減少しました。

賃金については、仕事に留まる従業員の年間賃金上昇率が4.8%と3年ぶりの低水準となり、特に転職者の賃金上昇率は7.2%に減速しました。業種別では、建設業が5.3%、教育・医療サービスが5.2%の賃金上昇を示した。

Comment

人事コンサルタントとしては、賃金上昇が鈍化していることを踏まえ、従業員のモチベーション向上策が求められる。特に転職者の賃金上昇が鈍化しているため、企業内でのキャリアパスの明確化やスキルアップの機会提供を通じて、従業員のエンゲージメントを高めることが重要である。

(2024年7月3日発表)

2024年6月分

Summary

6月の米民間雇用者数は15万人の増加となり、市場予想を下回った。5月は15万7000人増(速報値15万2000人増)に上方修正された。

財生産部門では建設業が2万7000人増加、サービス部門では娯楽・ホスピタリティが6万3000人、プロフェショナルサービスが2万5000人増加したのが目立った。

一方、天然資源・鉱業と製造業、情報サービスは雇用が減少した。

転職した人の賃金は前年比7.7%上昇となり、3か月連続で伸びが鈍化した。同じ職にとどまった人の賃金は前年比4.9%上昇で、2021年半ば以来の小幅な伸びだった。

Comment

業種間での雇用状況の不均衡が浮き彫りになった。また、転職者と同職にとどまる者の賃金伸び率の鈍化は、労働市場の全体的な賃金上昇圧力の低下を示している。人事コンサルティングでは、こうしたデータを基に企業の人材戦略を見直し、特に成長分野への人材配置や、労働者のスキルアップ支援を強化することが求められる。人事コンサルタントは、経済情勢に対応した柔軟な人材マネジメントを提案し、企業の競争力向上に貢献する必要がある。

(2024年7月3日発表)

2024年5月分

Summary

5月の米民間雇用者数は15万2000人増加となり、市場予想を下回り、今年1月以降で最も低い増加となった。4月は18万8000人増(速報値19万2000人増)に下方修正された。

製造業は2万人減と、昨年7月以来の大幅な減少となった。専門職およびビジネスサービスも過去1年余りで最も多くの雇用を削減した。鉱業と情報産業の雇用も減少し、娯楽およびホスピタリティーの雇用は昨年11月以降で最も低い伸びにとどまった。

転職した人の賃金は前年比7.8%上昇となり、2か月連続で伸びが鈍化した。同じ職にとどまった人の賃金は前年比5%上昇となり、2021年以来の低い伸びに並んだ。

Comment

5月のADP全米雇用報告は、米経済の減速を示唆している。民間雇用者数の増加が市場予想を下回り、製造業や専門職、ビジネスサービスでの雇用減少が目立つ。賃金の伸びが鈍化しており、インフレの影響と企業の慎重な採用姿勢が反映されている。人事コンサルティングの視点から、企業は労働市場の不確実性に対応しつつ、柔軟な雇用戦略の採用と賃金政策見直しの必要がある。

(2024年6月5日発表)

2024年4月分

Summary

4月の米民間雇用者数は19万2000人の増加となり、市場予想を上回った。3月は20万8000人増(速報値18万4000人増)に上方修正された。

4月の人員採用は広範囲で見られた。特に娯楽・ホスピタリティーや建設業で雇用が大きく増えた。唯一、情報産業では雇用が減少した。地域別では南部が最も力強い伸びを示した。

一方、賃金上昇率は4月に鈍化した。転職した人の賃金は前年比9.3%上昇となり、3月に比べて1ポイント近く鈍化した。同じ職にとどまった人の賃金は前年比5.0%上昇となり、3月とほぼ同じ伸びだった。

Comment

4月の米民間雇用者数が増加し、特に娯楽・ホスピタリティーや建設業で雇用が増加した一方、情報産業では減少した。賃金上昇率の鈍化が見られ、転職者の賃金上昇率が低下している。人事コンサルタントは業界ごとの雇用動向と賃金トレンドを綿密に分析し、適切な人材戦略を策定・提案する必要がある。

(2024年5月1日発表)

2024年3月分

Summary

3月の米民間雇用者数は18万4000人増加の増加となり、市場予想を上回った。2月は15万5000人増(速報値14万人増)に上方修正された。

雇用創出は広がりを見せており、特に娯楽・ホスピタリティーや建設、貿易・運輸で顕著に増加した。地域別でも全ての地域で増加し、南部が特に大きく増えた。

転職した人の賃金は前年比10%上昇に加速し、昨年7月以来の大幅増となった。

Comment

3月の米民間雇用者数は18万4000人増加し、市場予想を上回った。特に娯楽・ホスピタリティー、建設、貿易・運輸分野での雇用拡大が顕著であり、地域別でも南部を中心に全体的な雇用増が見られた。さらに、転職者の賃金が前年比10%上昇し、昨年7月以来の高い伸びを記録したことは、労働市場における人材獲得競争の激化を示唆している。人事コンサルタントとしては、企業がこの労働市場の動向に適応するための柔軟な採用戦略を構築することが急務である。特に、転職市場の活性化を踏まえた競争力のある報酬制度の再設計が求められる。また、南部などの雇用拡大地域では、労働力の確保と定着を目的とした研修・キャリア開発プログラムの強化が必要である。さらに、ホスピタリティーや建設業界においては、長期的な人材供給を見据えた育成施策や労働環境の改善を進めることで、持続的な成長を支援すべきである。

(2024年4月4日発表)

2024年2月分

Summary

2月の米民間雇用者数は14万人の増加となり、市場予想を下回った。1月は11万1000人増(速報値10万7000人増)に上方修正された。

転職した人の賃金の伸びは、2022年11月以来、初めて加速した。一方、同じ職にとどまった人の賃金は2021年8月以来の低い伸びとなった。

雇用の増加は娯楽・ホスピタリティーや建設、貿易・運輸がけん引した。雇用は地域や企業規模を問わず増加した。

Comment

2月の米民間雇用者数は14万人増と市場予想を下回ったが、娯楽・ホスピタリティー、建設、貿易・運輸分野での雇用拡大が全体の伸びを支えた。また、地域や企業規模を問わず雇用が増加しており、労働市場の回復基調は維持されている。一方で、転職者の賃金は2022年11月以来初めて加速したものの、同じ職にとどまった労働者の賃金上昇率は2021年8月以来の低水準に落ち込んだ。この傾向は、企業が既存従業員の処遇改善よりも新規採用に重点を置いていることを示唆している。人事コンサルタントとしては、企業に対し、内部人材の定着を図るための報酬戦略の見直しを提案すべきである。特に、長期的な人材確保のために、スキルアップの機会提供やキャリアパスの明確化が不可欠である。また、娯楽・ホスピタリティーや建設業など雇用が伸びている分野では、労働市場の競争が激化するため、企業ブランディングや柔軟な勤務形態の導入など、差別化された採用戦略の構築が求められる。

(2024年3月6日発表)

2024年1月分

Summary

1月の米民間雇用者数は10万7000人の増加となり、市場予想を大幅に下回った。

昨年12月は15万8000人増(速報値16万4000人増)に下方修正された。

1月は情報セクターを除く全ての業種で雇用が増加したが、最も増加したのは娯楽・ホスピタリティーの2万8000人だった。このほか、貿易・輸送・公共事業が2万3000人、建設業が2万2000人の増加となった。

1月に転職した人の賃金は7.2%上昇となり、2021年5月以来の低い伸びとなった。同じ職にとどまった人の賃金も伸びが鈍化した。

Comment

1月の米民間雇用者数は10万7000人増と、市場予想を大幅に下回った。情報セクターを除く全業種で雇用が増加したものの、特に娯楽・ホスピタリティー、貿易・輸送・公共事業、建設業での伸びが目立った。一方で、転職者の賃金上昇率は7.2%にとどまり、2021年5月以来の低水準となり、同じ職にとどまった労働者の賃金も伸び悩んでいる。これは、企業がコスト管理を重視しつつも、特定の産業での人材確保に注力していることを示唆している。人事コンサルタントとしては、企業に対し、コスト抑制と人材確保のバランスを取る戦略の再構築を提案すべきである。特に、賃金以外のインセンティブ(キャリア成長機会、福利厚生の拡充、柔軟な働き方)を強化し、従業員の定着率を向上させる施策が求められる。また、娯楽・ホスピタリティーや建設業といった成長分野では、効果的な採用戦略と研修プログラムの整備が競争力の強化につながるだろう。

(2024年1月31日発表)