お客様から「もっと社員にチャレンジしてもらいたいのですが、チャレンジを引き出すために何か良い方策はありませんか?」と尋ねられることがあります。近年、テクノロジーの進化や市場のグローバル化により、ビジネス環境は急速に変化しています。社員が競い合ってチャレンジする勢いがなければ、この変化に対応することは困難です。そのため、社員のチャレンジ精神を引き出すことは企業の重要な課題の一つとなっています。

そこで今回は、社員のチャレンジを引き出すための方策を、ゼロベースでシンプルに考えてみたいと思います。最新のトレンドや事例を踏まえつつ、効果的なアプローチを探っていきます。

方策の柱は、組織構造、プロジェクトの仕組み、人事制度の刷新です。

まずは組織についてです。従来の縦割り組織では、情報やアイデアの共有が阻害されることが多く、社員のチャレンジを促すには限界があります。そこで、組織はマトリックス型とし、縦軸に職種や職群別の部門を配置します。各部門には部門長を置き、部門長はメンバーの育成や稼働率、勤怠管理などを担当します。一方、横軸には各プロジェクトを配置し、部門を横断したチーム編成を可能にします。これにより、社員は自分の専門分野だけでなく、他の領域にも積極的に関与する機会が増え、チャレンジ精神を養う環境が整います。

マトリックス型組織イメージ

次にプロジェクトの仕組みですが、ここに少し工夫を凝らします。近年、多くの企業が社員の自主性を重視したプロジェクトマネジメントを取り入れています。具体的には、プロジェクトリーダーを希望する社員が自ら手を挙げて立候補できるようにします。このアプローチは、社員のリーダーシップや責任感を高めるだけでなく、社員自身のキャリアパスの明確化にも寄与します。

そのための準備として、会社は各プロジェクトの優先順位を決め、予算や品質、納期などの達成基準を設定します。さらに、プロジェクトの目的や期待される成果、必要なスキルセットなども明確にします。そして、各プロジェクトの内容を社員に公開し、プロジェクトリーダーを「公募」します。この際、最低限の立候補資格を設定しますが、可能な限り多くの社員が挑戦できるように配慮します。プロジェクトリーダーには、予算の範囲内で自由に活動できる裁量を与え、自らの判断でチームを構築し、プロジェクトを推進します。

【プロジェクト・フロー】

Step1社員は公開されたプロジェクトの内容や要件を検討し、リーダーになりたいプロジェクトがあれば立候補します。最近では、社内SNSや専用のプラットフォームを活用して情報共有を行う企業も増えています。

Step2立候補者が複数の場合は、投票やプレゼンテーションによる選考など、事前に定めたルールに従ってリーダーを選出します。これにより、公平性を保ちながら最適なリーダーを選ぶことができます。

Step3リーダーはスカウトや応募者を選考し、プロジェクトのメンバーを決定します。この際、異なるバックグラウンドやスキルを持つ多様なメンバーを集めることで、革新的なアイデアが生まれやすくなります。

Step4メンバーが揃ったら、リーダーは各メンバーの担当業務とアサイン工数を決定します。アサイン工数は必要に応じて部門長と調整します。リモートワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方を取り入れることも可能です。

Step5その後、プロジェクトをキックオフし、リーダーがプロジェクトを管理します。アジャイル開発やデザイン思考などの最新のプロジェクト管理手法を取り入れることで、効率的かつ効果的なプロジェクト運営が期待できます。

Step6プロジェクト終了後、遂行状況や達成基準の達成度などについて評価を受けます。この評価は、今後のキャリア開発やスキルアップにも活用されます。

ここで、プロジェクトの遂行状況や結果を報酬に反映させるための人事制度が必要となります。例えば、

  • 基本給を可能な限りフラットにし、業績評価を反映した賞与で貢献度に応じた差をつける「フラットでシンプルな賃金制度」を構築する。最近のトレンドとして、透明性の高い報酬体系が社員のエンゲージメント向上に寄与するとされています。
  • プロジェクトの遂行度や達成基準の達成度、会社業績への貢献を基に、メリハリのある「ダイレクトでダイナミックな業績評価制度」を構築する。

業績評価では、負った責任に応じた評価幅の設定が必要となるため、リーダーにはメンバーよりも大きな評価尺度を設定するなどの工夫が必要です。また、業績評価にピアレビューや360度評価を採用する方法も考えられます。これにより、社員同士のフィードバックが促進され、組織全体のパフォーマンス向上につながります。

現実には様々な制約の中で仕事をすることが多いですが、最初から制約を前提に考えてしまうと、平凡なアイデアしか生まれません。そのため、制約のない前提から発想し、課題にアプローチすることを心がけています。例えば、テクノロジーの進化によりリモートワークが一般化した現在、地理的な制約を取り払ったグローバルなチーム編成も可能になっています。

私たちコンサルタントも、お客様の課題解決のために地道にチャレンジを続けています。最新のビジネス動向や成功事例を取り入れながら、最適なソリューションを提供できるよう努めています。社員のチャレンジ精神を引き出すための取り組みは、企業の成長と持続可能性に直結する重要なテーマです。ぜひ、この機会に自社の組織や制度を見直し、新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。